あの家に暮らす四人の女

 

まずは記憶に新しいものから書いていこうかしら。

 

2018.12.07読了

『あの家に暮らす四人の女』三浦しをん

 

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初めての三浦しをん作品。

下敷に谷崎潤一郎の『細雪』があるようで『細雪』を読んだことがない私は全てを楽しみきれていないのだと思うと悔しい。

本屋さんのダイアナ』を読んだ時も同じ悔しさを味わったので、知識として名作を読んでおくのは必要だと再確認。

今ある積読を読み終えたら名作に浸るのもいいかもしれない。

 

語り手がいきなり善福丸に交代した時は驚いた。

唐突に始まるカラスの紹介。

そして鶴代と神田君の馴初めを語り出すカラス(善福丸)。

 

善福丸の語りが終わり、しばらくするとまた雄弁に語り出す語り手。

また語り手が変わったのかと思ったら、それまで神の視点的語り手だと思っていた語り手が実は佐知の父、神田君だったことがわかる。

なるほど。もう死んでいるから神の視点的であったのか。

だから梶が独身なのも知っていたのか。

 

離婚のきっかけにもなってしまった川太郎だったが、神田君は川太郎があったおかげで佐知を助けることが出来たというのもなかなか面白い。

川太郎が見つけ出されていなかったら、佐知は強盗に殺されてしまっていただろう。

神田君は川太郎の身体を借りることによって、初めて父親らしいことをしたといえる。

そして川太郎は神田君が初めて父として選んだプレゼント(出産祝い)だ。

神田君が父として行動する時、川太郎が必ず関わっている。

しかし、川太郎をプレゼントしたことで鶴代の中で何かが切れ、離婚となり、父親として生きる未来を失っているのだから皮肉なものだ。

 

 

物語は佐知の新たな恋の予感を漂わせて終わる。

同時にこの4人の女と離れに住む山田、地縛霊の神田君の奇妙な同居生活が長くは続かないことを暗示している。

けれど、それがいいのかもしれない。

始まりがあれば、終わりもある。

しかし終わりを恐れているだけではつまらないし、終わりがあるからこそ、人間は”今”を楽しむことができるのではないかと思った。