かわいそうだね?

 

2018.12.16読了

『かわいそうだね?』綿矢りさ

 

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帰国子女の恋人が元カノが就活の間、家に泊めてあげる話。

 

考えただけでも、ぞっとする。

 

どうして恋人(樹理恵)のことを愛していると言いつつ、元カノ(アキエ)と暮らせるのか。

メールの頻度だって樹理恵よりもアキエの方が多い。さほど返信していないにしても。

恋人がいるのに、どうして自分にまだ未練があるのが明白は女をそばに置くのか。

”かわいそうだから”だけでは済まされないだろう。

最後まで読み終わっても、隆大の考えていることはわからなかった。

 

隆大が理解できなかった一方で、樹理恵とアキヨの気持ちは痛いほど理解出来た。

綿矢りさは感情の機微の描き方が上手い。

 

隆大に嫌われない為に煙草も大阪弁も封印し、アキヨとの同棲も許した樹理恵と隆大の気持ちを取り戻す為に必死なアキヨ。

解説にも書いてあった通り、2人の性格はファッションにも現れている。

自身の務める上質なブランドの服と営業用のフルメイクで身を固めた樹理恵と安物の開きすぎた肩口のカットソーと短すぎるひらひらしたスカートのアキヨ。

樹理恵は自身の好きなブランドであり、勤めているブランドのイメージ、そしておそらく自分の年齢も加味した、相応かつ、上質なファッションに身を包んでいるというところが、好きなものに自分を染め、理想のイメージを壊すことのないよう保守に努める樹理恵の性格に通じているし、

自身の年齢を気にせず、安っぽくても自分の好きな服を、けれど下着は意外と大胆な物を着ているアキヨは、他人の評価を気にせず、自分の意思に従って突き進む猪突猛進なところが表れている。うちに秘めた想いの激しさも含めて。

 

最後の修羅場でアキヨが言った「私はね、あなたに興味がないのよ」という言葉でアキヨという人間が一気に理解できた。そして、共感した。

アキヨは全然”かわいそう”なんかじゃない。

むしろ”かわいそう”という同情ですら利用するほどの強さがある。

男性はどうか、このような女性の偽物の弱さに騙されないでほしい。 

 

物語を通して樹理恵は強く、1人でも自立できる強い女性で、アキヨは誰かが守ってあげなければならない、か弱い女性のように描かれているが、私は逆ではないかと思う。

アキヨはきっと無人島でも生き抜けるタフさをもちあわせているのではないだろうか。

 

 

 

同時収録の『亜美ちゃんは美人』はとても切なかった。

 

美人でどんな人もその魅力で惹き付けてしまう亜美ちゃん。

そんな亜美ちゃんの引き立て役兼親友のさかきちゃん。

 

さかきちゃんは亜美ちゃんのことが好きではない。しかし、亜美ちゃんはさかきちゃんに懐き、さかきちゃんがいない大学では友人がおらず、就職してもすぐに辞めてしまう。

それは「彼女(亜美ちゃん)は友達を、特に女の友達を持てる子ではない。」という小池くんの分析通りなのだろう。

 

そんな亜美ちゃんが初めて好きになり、結婚まで決めた相手。

とても賛同はできない相手だけれど、どうしても亜美ちゃんがその人でなければならないのは、亜美ちゃんがさかきちゃんに懐く理由と同じ理由であるということがとても切ない。

それは”亜美ちゃんのことが好きではない”から。

 

他の誰も理解できず、祝福もしない結婚だけれど

さかきちゃんだけは理解し、エールを送り、亜美ちゃんを支える決意をする。

切ないけれど、亜美ちゃんには頑張って結婚生活を送って欲しいと思わずにはいられない。

 

 

 

余談だけれど、そういえば『ウォーク・イン・クローゼット』でもファッションのは描写があった。

綿矢りさはおしゃれな作家さんなのかしら。