細雪
2019.1.20 上巻 読了
2019.1.28 中巻 読了
2019.2.5 下巻 読了
初めての谷崎潤一郎作品。
そして久しぶりの現代文学。いや、近代文学と言った方がわかりやすいか。
上·中·下巻はそれぞれ序破急であると感じた。
丁度そうなるように分けられただけかもしれないけれど。
上巻ではこの物語の舞台設定を読者に理解させる巻である。
長女の鶴子は夫である辰雄が婿養子となり、父亡き後、本家を継いでいること。
鶴子と辰雄の間には6人の子があること。
次女の幸子の夫の貞之助も婿養子であり、一人娘の悦子がいること。
三女の雪子は何度もお見合いをしているが、なかなか結婚が決まらないこと。
雪子が縁遠くなってしまったのは、妙子の起こした事件も片棒を担いでいること。
四女の妙子には奥畑という裕福な家庭の恋人がおり、この奥畑と昔、駆け落ちをしようとして新聞沙汰にまでなっていること。
今では人形制作に精を入れており、その収入のために姉妹の中で1番裕福な生活をしていること。
雪子と妙子は辰雄との折り合いが悪いこと。
だから本家ではなく、幸子の家に住んでいること。
中巻、下巻はこれらの前提のもと物語が進行していくので、上巻でしっかりと読者に伝えてくれる印象を受けた。
上巻での事件といえば雪子の『細雪』の中での1回目のお見合いだろうか。
幸子の流産もそれに付随する事件とも言える。
このお見合いも、読者に雪子のお見合い前後で何か不吉なことがよく起こるということ、いつもいい所まで運ぶが、最後にはダメになってしまうという、雪子のお見合いパターンを読者に提示してくれている。
そういえば、本家が東京に移るのも上巻だったろうか。
本家が移るのに伴い、雪子も嫌々ながらも東京に行くことになる。
妙子の方は、人形制作があるからか、本家の手に負えないからか、東京行きは免れ、幸子の家に留まる。
物語が本格的に動き出すのは中巻から。
上巻はややのんびりした印象を受けたが、中巻は波乱万丈であった。まさに破。
まず、大水害。
悦子と妙子を救おうと奔走する貞之助の男気と妻への愛が感じられる場面だった。
そして何より重要なのが、被害の中心にいた妙子の命の危機を救ったのが、貞之助ではなく、恋人の奥畑でもなく、板倉であるということ。
そして以降、妙子と板倉は交際を始める。
やはり自らの危険を顧みずに救われたら、たとえ恋人がいたとしても惚れてしまうかもしれない。吊り橋効果というやつだろうか。
それに肝心の恋人は、無事を確認したらとっとと帰ってしまったのであるし、妙子の愛が冷めてしまうのは仕方がないと言わざるを得ない。
そして妙子は板倉と将来結婚することを想定し、人形制作から実用的な服飾の道に進むことを決意。修行と奥畑と離れることを兼ねてフランス留学を熱望する。
結局、本家の許可が下りなかったり、頼みにしていた師のフランス行きが中止になったりして、フランス留学は叶わない。
ならばと国内で服飾の道を極めるための資金繰りをしている頃、板倉が怪我で入院。医師の不手際でそのまま板倉は帰らぬ人に。
板倉の容態が芳しくなくなってからの妙子は、希望に縋らず、現状を冷静に判断していて、妙子らしいと言えば、らしいのであるけれど、フランス修行し、職業婦人になってまで添い遂げようとしていたとは思えぬ冷静ぶりで、切り替えが早すぎるのではないかと感じたほど。
カタリナとシュトルツ一家との別れも中巻出会っただろうか。
このあたりから上巻にはなかった戦争の雰囲気が何となく臭うようになってくる。
そして下巻。
下巻でも妙子は死にかける。
板倉の死後、妙子は奥畑と復縁し、蒔岡家と表面上絶縁状態にあったため、赤痢を患ったのも奥畑の家でであった。
しかし、その為に妙子が今まで奥畑を財布のように扱っていたこと。板倉と交際していた時ですら、奥畑を利用していたこと。奥畑は妙子のために実家の商品をくすねていたこと。そして、その為に絶縁されたことが幸子の耳に入る。さらに妙子の新しい恋人の噂も。
雪子の献身的な看護で妙子は一命を取り留めるのである。
下巻では雪子の見合いも多い。
下巻だけで、たしか雪子は三度見合いをするのではなかっただろうか。
そして、雪子は初めて見合いで試験される側になる。幸子はその側に立たされて屈辱的に感じていたが、雪子はどのように感じていたのだろうか。
試験の結果は落第になってしまったが、またすぐに新しい見合いの話が持ち上がる。
しかし、この見合いも結果的には実を結ばなかった。
貞之助も相手方の家に訪ねたりして、今度こそはと思ったのであるが、雪子のお嬢さん気質が合わなかった。
この時の私の落胆ぶりといったら…。
もう半分しか残っていないのに、ここで駄目になってしまっては雪子が嫁ぐところは見れないのだろうか。
ところが、その願いは成就する。
井谷が渡米前に最後の見合いをセッティングし、その見合いが成功するのである。
しかし、喜んでばかりはいられない。
時を同じくして、妙子の妊娠が発覚する。
しかもお腹の子は奥畑との子ではなく、新しい恋人、三好との子である。
しかもその子は三好と結婚する為、奥畑と別れる為に計画的に身篭った子であった。
結局、死産という結末であったけれど、
見合いが成功し、煌びやかな花嫁道具や衣装も準備され、世間に望まれる形で子爵家に嫁いでいく雪子
結婚前の妊娠、出産で、荷物も夜逃げのようにそそくさと纏め、勘当同然の形で三好と所帯をもつ妙子
最後のこの対比は胸に詰まるものがあり、2人の、いや4姉妹の今後を想像する余白と余韻を残し、物語は終わっていく。
ラストシーンの余韻は『あの家に暮らす四人の女』に通じているところがあり、よく引き継いでいると感じた。