チョコレートコスモス
2019.2.24読了
本屋さんで見つけた時、恩田陸が演劇の話…?と思った。
私にとって恩田陸といえば『六番目の小夜子』の印象が強く、以前読んだ『私の家では何も起こらない』や『柊と太陽』(アンソロジー『クリスマス・ストーリーズ』より)でも、やはりどこか『六番目の小夜子』を彷彿とさせるホラーのような、ミステリーのような、それでいてファンタジーのような独特の世界観を持った作品を描く作家というイメージ。
けれど、『チョコレートコスモス』はいい意味でその期待を裏切ってくれた。
通称「CUBE」と呼ばれる国立劇場の杮落とし。その芝居の為のオーディションまでが群像劇で描かれている。
響子、巽、神谷の目からみた天才、佐々木飛鳥。演劇経験者として飛鳥の才能には嫉妬してしまう。はたして飛鳥のそれは才能なのか感性なのか…。
2回のオーディションシーンでは、響子と同様、自分ならどのように解釈し、どのような芝居を構成するかと考えるけれど、私のありふれた感性では他の候補者と同じ回答しか浮かばず…。
飛鳥はその斜め上の回答を提示してくれる。
どうしてその発想が出てくるのか。芝居を始めて間もないのに。
そして、それを描いている恩田陸の台本への理解の深さは流石だ。『欲望という名の電車』は何度読み込んだのだろう。2次オーディションのブランチの芝居と並行して影のブランチを演じるという発想は『欲望という名の電車』を読み込み、さらにブランチという女性を深く理解していないと思いつかない発想だ。
それだけではない。1次オーディションの『空いた窓』を2人で3役演じるという発想も、『空いた窓』もかなり深く読み込み、その面白さを損なわずに正解を導きだしていなければならないし、響子が出演している『ララバイ』も『真夏の夜の夢』の貴族パートを現代版にするのは容易くはないだろう。
そしてゼロ公演の『目的地』は同じ内容で、全く異なる2つの演出プランを考えなければならない。『目的地』はオリジナルとはいえ、あれだけ方向性の異なる演出プランを提示できる恩田陸という作家の持つ想像力は凄まじい。
続編の『ダンデライオン』、『チェリーブロッサム』も早く読みたい。本屋さんにあるかしら。
p.s.
調べてみたら『ダンデライオン』は掲載誌の休刊に伴い、未完のまま中断しているよう。
是非書き上げて出版してもらいたいと切に願う。できれば『チェリーブロッサム』まで。
佐々木飛鳥という役者の行く末を見てみたい。