ねじまき片思い
2018.12.25読了
『ねじまき片思い』柚木麻子
久々に柚木麻子作品。
これで4作目。
柚木麻子作品は女同士の微妙な友情が描かれていて好きだ。
そして読後は、友人に会いたくなってしまう。
さて。舞台は浅草。表紙に描かれているお姫様の玩具のような外見の、富田宝子が主人公。
富田宝子。
あの大手玩具メーカーから拝借したのだろう。
宝子自身も老舗の大手玩具メーカー〈ローレライ〉のエースであるし、名は体をあらわすといったところだろうか。玩具メーカーのエースに相応しい名だ。
他にも、思わずクスッとしてしまうような言葉遊びが見受けられ、そのセンスも本作の醍醐味と言って差し支えないだろう。
宝子の想い人はフリーの玩具デザイナーであり、発注先でもある西島。
これがどうも、宝子が長年片思いしているのが不思議になってしまうような所謂ダメ男。
惚れっぽく、生活力は皆無。仕事も宝子からの発注でなんとか繋いでいるような始末。
しかし、宝子は西島に片思いをしていることによって数々のヒット作を生み出しているのだから、宝子にとってのアイディアの泉である。
宝子のような中学生のような純粋な恋心の持ち主に、人の心を掴むものを生み出す才能が宿るのかもしれない。
前半〜中盤にかけては西島に降りかかる不幸を、「片思い探偵」の宝子が解決していく、ちょっとしたミステリーパート。
このパートはTwitterでも書いた通り、ポップな雰囲気。玩具を使って解決していく様はさすが宝子。
しかし、自分の活躍したことを西島に伝えない宝子。なんと健気。「見返りを求めている」と宝子本人が言っているほど、見返りを求めていないのではないかと感じた。
私だったらもっと求めてしまうと思う。
そして後半、住む場所を無くした西島に宝子はルームシェアを持ちかけ、宝子と西島、それともともと宝子のルームメイトである玲奈の3人での同居生活が始まる。
しかし、その同居生活は一瞬のことで、宝子が事件を解決している間に三角関係に陥り、玲奈の引越しという形で解消。
玲奈の行方がわからないまま2年の月日が流れる。
玲奈不在のまま片思いの相手と奇妙な同棲を続ける宝子。
そんな時、玲奈の手掛かりを掴み、1人で玲奈に会いに九州へ飛ぶ。
2年間の同棲と玲奈への想いをきっかけに、自信の西島への想いを見つめ直す宝子。
そして、そのままロンドンへ飛ぶ。
ロンドンの風景をそれまでの浅草とリンクするような描写は驚いた。
ロンドンアイは花やしき
ビックベンはスカイツリーと言われれば、なるほど。そう見えなくもない。
ビックベンが低すぎる気もするが。
ロンドンで移動遊園地のメリーゴーランドに乗っていると、宝子を追ってきた西島の姿が。
成長した宝子につられて、西島も成長しようとしているのだろう。
1人でネジを巻いてきた宝子の歯車と止まっていた西島の歯車が、最後の最後で噛み合ったように感じられた。