舟を編む

 

2019.2.28読了

舟を編む三浦しをん

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友人に勧められていた本。

読んでみて、なるほど、彼女が好きそうだ。と思った。

 

『大渡海』という辞書が編纂されるまでの物語。

辞書の名前が『大渡海(だいとかい)』なのが、作者のセンスが光っていると感じた。

辞書の命名については「辞書は言葉の海を渡る舟だ。」「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。」「もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう。」「海を渡るにふさわしい舟を編む。」と、荒木と松本先生が作中述べている。

なるほど。だから大きな海を渡ると書いて、『大渡海』。そして、物語のタイトルが『舟を編む』であると納得できる。

しかし、読みが『だいとかい』というところに何故か惹かれた。

だいとかいは大都会を連想させる。

そこになんとなく現代社会に生きる私達の為の辞書というようなニュアンスを感じてしまった。…私の考えすぎかもしれないけれど。

 

そして、登場人物が皆、個性的かつ魅力的だ。

主人公の馬締はもちろん魅力的で、人気があるのも頷ける。

けれど、私が1番応援したくなったのは西岡だった。それは西岡が1番人間臭いと感じたから。馬締に嫉妬する所も、それでいて馬締を憎むこともできず、むしろ馬締を全力でサポートしていた姿が印象的だった。麗美との馴初めも、プロポーズに至るまでも決してドラマチックとも紳士的とも言えないけれど、麗美への気持ちき気づいたところ、子煩悩になったところを鑑みると、西岡はあのように見えて、意外と愛情が深いのかもしれない。麗美と末永くお幸せに。

 

 

 物語終盤、間もなく『大渡海』が出版されるというところで「松本先生は『大渡海』の完成を待つことなく、二月半ばに亡くなった。」という一文には驚いた。時が止まった。

間に合わなかった。あと1ヶ月程ではないか。

そんな感情が渦巻いたまま読み進めたところでの松本先生の手紙。喉の奥がツンとした。

 

それでも長い年月をかけて完成した『大渡海』は、言葉の海を渡っていく沢山の人々を乗せ、言葉の光を集めていくのだろう。そして馬締達は『大渡海』という舟がより強固な舟になるよう、改定を続けていくのだろう。

希望を乗せ、大海原をゆく舟の航路に果てがないように。