けむたい後輩
2019.5.16読了
『けむたい後輩』柚木麻子
私は柚木麻子作品が好きだと確信してからというもの、本屋さんに行くとなんとなく柚木麻子という文字を探してしまう。
そしてまだ自分の本棚に迎えていない作品を見つけてはレジに運んでいく。
『けむたい後輩』もそのようにして本棚に迎え入れ、しばらく積読コーナーに鎮座していた作品だ。
読み始めて驚いた。
本を開いてすぐに集中していた自分に。作品に飲まれた。
自分の中にも栞子の片鱗があることに幾度も気付かされ、硝子の破片を握っているような愚かさと滑稽さと痛みを感じさせられたけれど、私は栞子を憎みきれなかった。
美里も最後に気づいたように、栞子も栞子なりに一生懸命頑張っているのだ。
いつも男に縋って、1人で自立することなど栞子には到底無理であろう。
それでも栞子は栞子なりに、ほんの僅かではあるけれど成長していると感じられる。
栞子と比べて、真実子は一気に成長する。自立したというのが大きいのだろうが、本編の大学生の真実子とエピローグの真実子の纏っている雰囲気がはっきりと異なっている。
そして終盤の真実子の怒りは『私にふさわしいホテル』を思い出させた。
柚木麻子の描く怒りは、大きすぎるエネルギーを抱えつつも脆さもあるように思える。
それが狂気じみて感じる人もいるかもしれない。
けれど不思議と不快ではない。
かといってスカッとするわけでもなく、エネルギーをわけてもらったような感覚になった。
また、読んでいて共感し、反省したのは美里と栞子の真実子への認識だ。
美里と栞子は真実子に対して対極的な接し方をしているが、根本的な部分ではとても似通った認識ではないだろうか。
2年生編で真実子の元彼が登場するのだが、この元彼の登場に美里と栞子は動揺する。
2人とも真実子は処女だと決めてかかり、真実子を自分より下だとランク付けしていたのだから。
経験しているか否かがどうしてこの年頃では重要事項になってしまうのか。通り過ぎてしまえば滑稽なものに思える。
柚木麻子は心理描写が的確でいて、自分を振り返る鏡の様でもあると感じた。